日本(にっぽん)維新の会代表に就く橋下徹大阪市長は13日、政府の憲法解釈で行使が禁じられている集団的自衛権について「基本的には行使を認めるべきだ」と述べた。靖国神社への参拝について「日本の歴史を作ってきた人に対して礼を尽くすのは当然のことだ」と今後、政党代表として参拝する考えも示した。報道陣の取材に答えた。
集団的自衛権は国連憲章で各国に認められた権利だが、政府解釈で憲法9条に照らし行使は認められない、となっている。野田首相が7月、憲法解釈の見直しを検討する意向を表明するなど議論が活発になっている。
橋下氏は「権利はあるが、行使はできないというのは役人答弁としか言いようがない。論理的にも言語的にも理解できない。何も政治が手立てできなかったのは政治の恥だ」と述べた。一方で「無条件に集団的自衛権の名の下に何でもかんでも認めていくのはダメだ。行使の仕方について憲法9条の観点から近隣諸国にも納得してもらうような形でルール化したらいい」と語った。
靖国参拝の時期については「8月15日の終戦記念日に行くか、(春・秋の)例大祭に行くか、どちらが礼を尽くすことなのかを考えないといけない。維新の会で協議して態度を決めたい」と述べた。
橋下氏は自民党の憲法改正草案に関連し、自衛隊を「国防軍」に改めることについては「自衛隊を軍だと名称を改める必要はない。今さら軍に変えるなら初めから軍にしておけばいい」と否定的な考えを示した。
■国防意識の明確化に利点
憲法9条に照らし、政府が行使を認めてこなかった集団的自衛権。13日、日本維新の会代表に就く橋下徹大阪市長が「権利はあるけど、行使はできないなんて、政治の恥だ」と異を唱えた。民主、自民から解釈見直し論が相次ぐ中、競うように橋下氏も「参戦」。唐突な発言に危うさを指摘する声も上がった。
外交問題に関して比較的慎重な発言を続けてきた橋下氏だったが、この日はぐっと踏み込んだ。
大阪大大学院法学研究科の坂元一哉教授(国際政治学)は「自分たちで自国の領土をしっかり守ると明確に打ち出すメリットを考えたのでは」と話す。同会のロゴに竹島や尖閣諸島を入れたのも同じメッセージと見る。
原発、消費増税など重要課題が山積する中、野田首相は7月、国会で「政府内での議論も詰めていきたい」と答弁。自民党総裁選で安倍晋三元首相らが「集団的自衛権の行使」を公約に盛り込むなど、解釈見直し論が相次ぐ。坂元氏は「態度をあいまいにしていては、有権者から物足りなく思われると判断したのだろう」と語った。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「外交ブレーンに言われるまま、あまり深く了解しないで発言している可能性があるのでは」と首をかしげる。
孫崎氏によると、国連憲章が想定する集団的自衛権は、同盟国などが他国に攻撃された際に共同して対処するもの。しかし、国内での議論はもっぱら、自衛隊がイラクやアフガニスタンで米国と共同行動できるようにすることに狙いがあるという。「橋下氏は『日米関係の強化』に役立つと考えたのでは」と語った。
■憲法解釈の歴史に無理解
「権利があるのに行使できないのは理解できない」とする橋下氏の発言を疑問視するのは、高見勝利・上智大法科大学院教授(憲法)。「国際法で認められた権利でも、憲法で歯止めをかけることはできる。それを理解できないという発言こそ、憲法論として理解できない」
橋下氏は集団的自衛権を行使できるように、憲法9条を変えるべきだとは言っていない。高見教授は「国会議員は現憲法の順守義務を負う。国政を目指すのであれば、理解できないと切り捨てる前に、いまの政府解釈が積み上げられてきた歴史を踏まえ、まずは理解しようと努めるべきだ」とクギを刺した。
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大阪維新の会(代表・橋下徹大阪市長)は13日、近く立ち上げる国政政党「日本維新の会」が次期衆院選で擁立する候補者の公募を始めた。募集期間は今月28日まで。維新の会は候補者の大半を公募で確保し、10月から選挙区ごとの公認候補者の選定作業に入る。
公募は同会のホームページで告知。維新政治塾の塾生と、行政、政治家の経験者が対象で、党の綱領となる「維新八策」への「100%賛成」が条件。統治機構改革や教育委員会制度、改憲など6項目について考えを聞く「アンケート」の提出も求めた。
10月以降、国会議員や幹事長の松井一郎大阪府知事らによる面接を始める。選挙区は第3希望まで聞いているが、松井氏は「希望は尊重しない」と明言しており、「落下傘」候補を多数擁立する考えだ。
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橋下徹氏の集団的自衛権に関する発言の要旨は次の通り。
基本的に(集団的自衛権の)行使は認めるべきだ。(維新八策で)「領土を守る防衛力と政策(の整備)」となっている。行使しなければいけない、ではなくて、権利があるなら行使はできる。権利があって行使がないのはあり得ない。
行使のルールをつくっていくのが目指すべき方向性だ。集団的自衛権は国連憲章でも認められている。権利はあるが、行使できないのは完全に役人答弁としか言いようがない。内閣法制局の考え方は理解できない。無条件に集団的自衛権の名の下に何でもかんでも認めていくのはダメだ。何も政治が手立てできなかったのは政治の恥。維新の会でも認める。
行使のあり方について憲法9条の観点からルール化していけばいい。近隣諸国にも納得してもらう形で。韓国、中国も集団的自衛権だ、軍事力だと言ったらナーバスになることも厳然たる事実。国際社会で名誉ある地位を占めるため、我々はアジアの中でも群を抜いて成熟した民主国家だ。それにふさわしい形で集団的自衛権行使のルールを考えていくべきだ。
http://www.asahi.com/20120914/pages/politics.html?ref=mail_0914_02